0207〜0216「ちいさいおうち立体化計画」



 この作品は、「JOINT-未来をつなぐオモチャ展」の展示企画として、バージニア・リー・バートンによる有名な絵本「ちいさいおうち」に描かれている情景のなかから代表的な10のシーンを抜き出して製作したものである。
 もっとも留意しなければならないのは、展覧会全体としては「組み立て玩具の紹介」という枠の下、ネフやゾムツール、ラキューなど、様々な組み立てタイプの知育玩具の展示があるということだ。

 そこで、レゴブロックとしても、基本となる寸法単位を守り、四角いブロックやプレートによる「ドット絵」モデルであることに留意した。これには、諸般の事情でレゴ社からのオフィシャルなサポートが得られないため、購入が容易で安価な基本ブロックを中心にせざるを得ないこと、10作品全体の作り込みの均質化の面から部品の種類に一定の線引きが必要であること、という事情もあった。このため、地形の起伏は全体的にブロック単位の厚みだけで構成し、屋根ブロックで山腹の傾斜面を作るようなこともしていない。

 作品の大きな特徴としては、この絵本の主体であるパノラミックな情景描写を強調するために、全体にわたって強制遠近法をを多用している点がある。遠景を前後方向に圧縮し、自動車や家などを近景と遠景で大きさを変えることで遠近感を強調しているわけだ。

 本当はもっとこうしたい、という部分も少なくないが、時間的金銭的な面から断念せざるを得なかったのは悔しい。私財でまかなうにはあまりに大きい作品だったというのが、正直な感想である…。

シーン1「昔々…」(0207)


 絵本の導入部と同様に、ちいさいおうちの立つ小高い丘をアップで描く。ゆえに、全体の中では数少ないミニフィグスケール作品となっている。底面積は32x32のプレート4枚。一頭立ての馬車が付属する。
 会場においては、バックにはゆったりと回る「太陽と月」のモーター作品が置かれ、「時の流れ」を主題にした世界観であることを示している。

シーン2「夏」(0208)


 シーン1の視点をそのまま全体情景に切り替えたような作品で、以降はほとんどが、この「ちいさいおうちを中心にした情景の変遷」を描くことになる。この全景は全て32x32のプレート5枚が基本単位となる。家の背後には幾重もの丘が連なり、この間を縫うように、つづら折りの道がはるか遠くへと続いている。手前から奥までの木のサイズに5段階の差をつけている。

シーン3「冬」(0209)


 シーン2の情景が冬に突入する。モノクロームな世界が広がり、木々からも葉が落ちて一抹の寂しさがあるなか、唯一ちいさいおうちにだけ色が付いている。絵本では、ここまでで春夏秋冬全てが描かれているが、シーン数抑制の取捨選択の中で、春と夏の差別化が難しいこと、秋を描くにはタンやオレンジの部品に余計な出費を強いられることから、分かりやすい夏と冬のみをピックアップした。実は、冬の情景は雪が積もっっているぶん夏の情景よりも1プレート分の厚みがある。

シーン4「開発はじまる」(0210)


 全体はシーン2とそっくりだが、右奥からちいさいおうちの手前まで、従来からある道路とは全く脈略のない自動車道路の建設工事が、丘を切り崩しながら進出してきている。野の花も工事場所周辺からは消えている。ショベルカーやロードローラー、ブルドーザーが忙しく働く。奥には住宅が建ち始めた。

シーン5「住宅化」(0211)


 開発は一気に進み、地域一帯が新興住宅街に。切土と盛土によって周辺の土地がかなり均されてしまっている。描写はないが、このころからちいさいおうちには誰も住まなくなっている。本格的な車社会が到来し周辺にはガソリンスタンドが目立つ。これまで川が流れていたところが埋め立てられて暗きょ化されている。奥行き方向の車の大きさを変えたり最奥の家々の壁に薄灰色を用いるなどして遠近感を強調している。

シーン6「都市化」(0212)


 住宅街が多層化し、アパートが集まる長方形の都市街区が確定する。土地全体もいつの間にか完全な平坦になり、交通量はどんどん増大して街行く人も増えてきた。地中の土管も増えた。スーパーマーケットが建っている。遠景の住宅や遠景の車は近景より沈んだ中間色にすることで、形態と色彩両面で遠近を際立たせている。人の大きさは一番手前でもミニフィグより小さく8プレート分の高さしかない。

シーン7「都市の中で」(0213)


 シーン6のアップとしての表現に加えて、路面電車が目前を往来しはじめたことを示す。32x32のプレート4枚使用。ミニフィグを多用してにぎわい感を演出している。高級クーペ、リムジン、路面電車を付属物として造形した。
 原作ではラスト近くまでずっと視点は引いたままなのだが、フィギュアを用いた情景をいま一度挟むことで、シーン1からの変化をわかりやすく見せる役割を担う。その意味から、バックにはシーン1と似た「太陽と月」が置かれるものの、こちらはギア比の変更によって3倍近い速度で回転するようになっている。月日の流れが都市化によって加速しているのだ。

シーン8「ビル化」(0214)


 場面は更に都市化の度合いを増し、摩天楼が林立するビル街へと変貌する。地下鉄も走り、ちいさいおうちの両隣ではツインタワーの建設がスタート、路面電車の真上には新たな高架鉄道も建設中で、一帯は建設車両が渋滞を起こすほどの開発バブルだ。
 原作ではシーン6から8の間が比較的段階を追って描かれるが、高架鉄道の建設とタワーの建設を同時進行のものとして急激な変化を強調している。奥のビル群は暗いシルエットだけで表現し、重層的で無機質な都市風景を描いた。ビル群はとにかく同じ表現で複数量産しなければならないので、思った以上に部品を消費する元凶となった。ちなみにビルの背面側は灰色一色になっている。

シーン9「脱出」(0215)


 タワービルと高架鉄道が完成し、都市化は極限に。ちいさいおうちにはもう居られる場所のない世界になってしまった。そのため、かつてちいさいおうちに住んでいた家族の末裔があらためて家を訪問し、土台ごと家を別の場所へと移築することになった。周囲の交通が一時的に規制され、大勢の人や車が、家そのものが引越すという珍しい光景に見入っている。
 ツインタワーは尖塔部の形状を若干変えて、「キング」「クイーン」と勝手に命名した。(原作では先端形状は不明)

シーン10「新たな丘へ」(0216)


 これまでとちょっと違ったコの字配置の情景。やはり32x32プレート5枚使用。持ち主の車と、牽引トラック、パレット状のトレーラーを付属物として造形した。
 ちいさいおうちを乗せたトレーラーは、都市から脱出。長い間主のいなかったちいさいおうちはもうボロボロになっている。左奥には、これまでの都市発展の経緯を逆行するように、高層ビル、アパート街、戸建てのシーンが折り重なって過ぎ去っていく。そして右奥には、かつてちいさいおうちが建っていたのとよく似た丘が見えてきた。そこがこの家のための新しい場所だ…。

 原作ではこの後、新しい丘の上に建って喜色満面のちいさいおうちの絵で終わる。しかし、私はあえてそこまでを描かず、このシーン10までを描き、そのかわりに作品全体をドーナツ状に配置した。つまりシーン10のすぐ横には最初のシーン1がある。
 これは、「この絵本はこれでハッピーエンドなのか?新しい場所に逃げてもまた結局都市に飲み込まれてしまうのではないか?」という危惧からあえてこのような構成にしたもので、各作品には1〜10の番号を記してはいるものの、額面どおりシーン10を終わりにしてもいいし、またシーン1に戻って堂々巡りを何度も体験するのも一興、としてここは観る者に委ねているのだ。

各シーンの違うアングルや部分画像についてこちらで公開していますのでご参考まで。


トップページへ戻る